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 ダンスパーティ当日、クレナの空は真っ青に晴れ渡った。
 イルナは、娘たちの身支度を手伝いながら、クレナのダンスパーティで夫と初めて逢った夜のことを思いだしていた。あれはまるでゆうべの出来事のよう。それなのに、今夜は自分の娘たちがそのパーティに行くなんて。
 イルナはため息をつく。
 たったひとりの妹の、大切な忘れ形見。ユナは最近、どきっとするほど妹に似てきた。うれしいことがあると、ぱっと輝く大きな瞳。ふっくらした、のつぼみのようなくちびる。つややかな濃い栗色の髪……。
 昨夜、成人の誕生祝いに、その髪にぴったりの真珠の髪飾りを贈ると、彼女は飛びあがって喜んだ。
 ||なんて素敵なの! ロデス伯父さん、イルナ伯母さん、本当にありがとう!||
 イルナは、編み込みを入れながらふわりとユナの髪を結い、その髪飾りで留める。指先がふるえた。
 そう遠くない将来、ユナもレアナも自分の手を離れ、それぞれの道を歩み始める。子どもは授かりものだというけれど、それより、ほんのつかのま、天から預かった存在なのだ。
 不意に胸がつまり、涙があふれそうになる。イルナは急いでいった。
「さ、これでいいわ」
「ありがとう、イルナ伯母さん! わたし、素敵なレディに見えるかな?」ユナは立ちあがり、その場でくるりとまわってみせる。
 くるぶしまで隠れる白いシフォンのドレスが、やわらかなシルエットを描いた。品よくあいた胸もとには、ローレアの花をかたどったペンダント。妹が大切にしていたものだ。
 いつもと変わらぬ天真らんまんさに、イルナはどこかほっとする。
 レアナが、吐息をもらした。
「とってもきれいよ、ユナ。きっとルドウィン王子も目を留めるわ」
「レアナもほんとに素敵よ。生徒たちに見せてあげたいな。ねえ、イルナ伯母さん?」
 レアナは若草色のせいなサテンのドレスに身を包み、明るい栗色の髪には、夫が庭で摘んだクリーム色の薔薇のつぼみをさし、胸もとにはエメラルドのペンダントがきらめいている。星をかたどったエメラルドは、自分たち夫婦からの成人祝いで、ブルーグレイの瞳は、その石とドレスの色を映して、澄んだ緑色を帯びている。いつもは地味で目立たない娘が、よいはなんと輝いていることか。
「さあさ、ふたりとも。パスターさんが迎えにくるころよ」こみあげる思いを抑え、娘たちをうながして階段を降りる。
「いったい、どこのお嬢さま方ですかな」ロデスが感嘆の息をもらし、ほおひげをなでた。
「今夜のぼくは両手に花だ」ヒューディもいう。けれどもその瞳は、レアナひとりに釘付けになっていた。
 
 パスターさんは時間通りにやってきた。誰もが興奮状態で、道中はにぎやかだった。
「それにしても、ヒューディ。ちっとも変わってないな」
「パスタ―さんは変わりましたね。可愛い女の子が生まれたそうだし、少しばかり恰幅かっぷくもよくなって」
「かみさんはもっと恰幅がよくなってるぞ」パスタ―さんはからからと笑う。
 風に乗って音楽が聞こえ、ほどなく、白樺の木立に囲まれた広場についた。
 送りの馬車がそこここに止まり、着飾った男女が次々と降りては、中央に組まれたダンスフロアーに上がってゆく。飾り彫りをほどこした手すりと、かがり火で囲まれた松材のフロアーには、両側に、飲み物や料理をのせたテーブルが並び、右手なかほどでは、楽団が陽気な音楽を奏でていた。
「わあ!」ユナが目を見張る。
「夜明けに迎えに来るよ」パスターさんがいった。「それまで楽しんできな!」