国境の街はずれ。木立にたたずむ黒松亭のテラスでは、ふたりの少年が昼食のまっただなかだった。
 ころころ太った小柄な方が、大皿に山盛りになったベーコンとじゃがいもを口に放り込み、奥に向かって怒鳴った。
「おーい、おやじ! ワインもう一本!」
「まだ飲むのか」ひょろりと背の高い方が遠慮がちにいう。「ガキのうちから飲むと禿げるって、昔、ひい祖母ちゃんがいってたよ」
「ばかほざけ。来年は十六だ。ゆうべは久々にいいカモにあたったし、景気よくいこうぜ」
「そういや今朝、また別の泊まり客が追いはぎのうわさをしてた。そろそろ場所変えたほうがよかないか?」
「追いはぎだと? 人聞きの悪いこというなよ。俺たちゃ、旅人が寝静まるのを待って、金目のものをちょうだいしたり、親切にも窓を開けてある家から、ちょっくらお宝を失敬するれっきとした泥棒だ。もっと誇りを持て。おーい、おやじ! いないのか?」
 そのとたん、彼らの目の前に飛び込んできたのは、おやじではなく、ひとりの若者だった。後ろから、真っ黒な馬に乗った、灰色のマント姿の騎士が追ってくる。
 若者は、少年たちのいるテラスに駆け上がった。
 追っ手は二騎。馬から飛び降り、若者をテラスの隅に追いつめ、長剣でひと突きにすると、ぐったりと動かなくなった身体をさぐる。上衣から靴の中まで念入りに。
 目当てのものが見つからなかったのか、彼らはすっと立ち上がった。そして、ガタガタと震えている少年たちにはいちべつもくれず、もときた道を引き返していった。
 その姿が見えなくなるまで、少年たちは身動きひとつしなかった。ひづめの音が遠ざかると、小柄で太った方が、われに返ったようにベーコンやパンを荷物につめこみ、まだショック状態の相棒を揺すった。
「ジョージョー、ずらかるぞ!」声をかけ、ふと死体に目を留める。
 騎士たちは、何も奪った様子はなかった。自分たちには目もくれなかったことからして、金目当てではない。となると、まだいくらか金目のものが残っているはずだ。
 意を決して、死体に近づく。
「フォ||フォゼ||なにしてんだよ」
 相棒を無視して、死体の上衣に手を伸ばす。
 と、突然、死体がその手をつかんだ。彼は悲鳴を上げ、相棒もつられて叫ぶ。死体の目がぱっと開いた。
「王子に||ルドウィン王子に||伝えてくれ||ルシナンからの||緑のベストの少年に||預けた||
「預けたって||なにを?」
 こたえはなかった。今度は本当に死体になっていたからだ。
「冗談じゃないぜ」彼はあとずさりする。
 宿のあるじだろうか、奥でガタッと音がした。少年たちは、脱兎だっとのごとく走り出した。
 
 黒松の木立を抜け、明るい街道に出たところで、少年たちはようやく足を緩めた。フォゼから話を聞き、ジョージョーがいう。
「ほんと心臓が止まるかと思ったよ。で、俺たちこれから王子のところに行くのか?」
「行くわきゃないだろ? このあたりが一番稼ぎがいいんだ。都は競争が激しいからな。あれは聞かなかったことにしよう」
「だよな。都は遠いし、王子なんて会ったことないし」
「待てよ」フォゼはつぶやき、「行こう!」
「え?」
「頭使えよ、ジョージョー」彼は相棒をこづく。「ルシナンの少年に預けたってものは、王子に渡すはずだったものだ。灰色の奴らは、そいつを探してたんだよ。ってことは、一世一代の大手柄。たんまりほうをせしめられるじゃないか!」