きな臭い匂いに、ユナは目を覚ました。そのたとたん、ガシャンという大きな音がして、バルコニ丨から二人の男が飛び込んでくる。 ガラスの破片が、部屋中に飛び散り、ユナは飛び起きた。﹁一緒に来てもらおう﹂松明を手に片方がいう。軍服にはドロテの紋章。﹁なんの用?﹂動揺を抑え、ユナは落ち着いた動作で床に降り立った。 ちょうど服も靴も身につけたままだ。酔いはすっかり
ながらくずおれる。黒い長靴。ドロテ兵だ。﹁フォゼ!﹂ユナは彼の腕をとった。﹁立って!﹂ 起きようとしたフォゼの目が、大きく見ひらかれる。次の瞬間、彼はユナは思いきり突き飛ばす。ユナは仰向けに倒され、弓ごと背中を打ちつけた。バリバリッと恐ろしい音がして、ド丨ンと床が揺れる。 気がつくと、フォゼが
瞳の奥が、かすかに揺れる。その瞬間、雷に打たれたようにユナは悟った。わたしはこのひとを愛している。黄昏の崖で助けてもらう遙か前から||。 目の前に、霧に包まれた森があらわれた。その夜明け前の青い森を、彼女は素足で歩いている。誰かがあとをついてくる。彼女はゆっくりと振り返る。 もちろん、そうだ。そこでほほえんでいるのは、ルドウィンそのひと||まだ少年ともいえる若さで、髪も瞳もいまより濃い色をしているけれど、その瞳がたたえる真摯な輝きと、どこかいたずらっぽいほほえみは、まぎれもない彼だった。﹁遠い昔、わたしたち、一緒にいたのね﹂ ルドウィンはこたえなかった。彼の沈黙は、どんな言葉よりも真実を語っていた。﹁ずっと知っていたの?﹂﹁いや﹂彼は静かにいう。﹁負傷して、あわいの世界をさまよっていたときに思い出した。だけど、最初に逢ったときから、どこかではわかっていた。きみは特別なひとだと﹂ 歳月を超えた恋人たちは、なにもいわずに見つめあった。始まりも終わりもない永遠の一瞬のなか、ユナは、自分がずっとこのひとときを待っていたことを知った。訪れるべくして訪れた瞬間なのに、それは奇蹟のように思われた。 流れ星がふたつ、長い尾を引いて夜空を駆ける。ルドウィンは、彼女のほおをやさしく両手で包み込み、星明かりに輝く彼女の瞳に、彼の瞳が影を落とした||。﹁ルド﹂ヒュ丨ディの声が響き、ふたりはさっと身を離す。﹁夜番はぼくがやるよ﹂﹁そうだな||﹂彼は咳払いをした。﹁ユナとジョ丨ジョ丨は休ませよう。まずは俺が見張りに立つ。夜明け前に起こすから、そのあと、交代してくれ﹂ ルドウィンは、木陰で立ったまま眠る愛馬を見つめていた。かたわらでは、ユナとヒュ丨ディ、ジョ丨ジョ丨が、寄り添うように眠っている。 ヒュ丨ディを起こすつもりはなかった。今宵、彼もまた、自分で思っている以上に衝撃を受けている。朝までいくらもないが、少しでも休ませたかった。 トネリコに似た木々が
入る。運命の一日。その言葉と、これまでのすべてが試される。ふたたび梟が鳴いた。ルドウィンは夜の闇を見すえる。 長く厳しい一日となるだろう。