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 黄昏たそがれに染まる空の下丨ンの王宮は色に輝き庭園は竪琴たてごとの音とやわらかな花の香りに満ちていた晩餐ばんさん前のひととき一行は汗を流して着替えをすませ飲み物を片手にフ丨ンたちと談笑している ユニコ丨ンをかたどた噴水が澄んだ音色を奏でるなかリ丨はゆたりした半円形の長椅子に座り両側にはエヴイン王妃とヨルセイスが腰掛けていた この庭園も王宮もどこか不思議となつかしく彼の左手首では三粒のダイヤモンドが歌うようにきらめいている返そうとしたのだがエレタナからかりよくなるまと身につけているよういわれたのだ ふと黒いロ丨ブ姿の男の夢が思い出され男が大いなるダイヤモンドから剣を切り出し涙のようなしずくがこぼれ落ちたときリ丨は思わず手をさしのべて雫を受けとめあの男は||そして自分は何者だのだろうそのことはあなたがここにいるあいだに話しましリ丨の心を読んでヨルセイスがいわたしたちのダイヤモンドにまつわる古い物語をなにもかもほんとええリ丨反対側からエヴイン王妃がほほえみかけるヨルセイスは遠い昔に失われてしまたフ丨ンの故郷のことも知ているのでも今日はそれよりの日を祝いまし常春とこはるのこの国でも至はとても神聖で昔はひと晩中たりたりしたものよ今年は久しぶりにしい夜がよみがえるわユナが||ルシタナがてきたからだええそうよみんなとこの日を待ちわびていたのわたしたちにとルシタナを失た悲しみは本当に深かたから そのことは彼も感じていた船着き場でユナを出迎えた王と王妃のまなざしに船着き場から王宮までの道々や王宮の正面で丨ンたちが息を呑みひざを折てユナを迎える姿にエレタナの兄姉うだいである王子や王女まだ体調の万全ではないユナを気遣いながら彼女を包み込んだ思いのこもほうようそしてとりわけ戦場から戻て間もないという末の王子ユリスがすい色の瞳からはらはらとこぼした清らかな涙に リ丨は黄昏たそがれの庭園をながめる ユニコ丨ンの噴水の向こうそのユリスがルドウンと談笑しているのが見えた近くではユナと姉のラシルが王女たちと話している そこへワイス少佐とパ丨シ丨大尉がやてきた

 パ丨シ丨大尉はワイス少佐の旧友でろりと背が高くふさふさした金髪と明るい茶色の目をした若者だ彼がなにか冗談をいたのか楽しげな笑い声が上がる今宵こよいそのすべての悲しみが大いなる喜びに変わるでしヨルセイスがい  星がひとつまたひとつと姿を見せるころ一行は庭園から柱廊を通王宮の上の階へと案内されたそこは優美な円柱に囲まれた大広間で繊細せんさいな花々でいろどられたテ丨ブルにはさまざまな飲み物や料理が並びいテラスからは白銀の川と対岸の人の世界||緑の森と雪をいただく山並みを見晴らすことができた 松明たいまつかれ無数の燭台くだいに火が灯り美味しい食事と笑い音楽にあふれた夏至の晩餐ばんさんが始ま竪琴やリ丨トハ丨プや横笛の音色丨ンたちの歌声が澄んだ夜空に響き渡る そして星々が輝きを増すころ楽師たちが円舞曲を奏で始めた オ丨ベンレンガ丨王がエヴイン王妃の手を取る王妃の色の瞳が輝きふたりは優雅に踊り始めた王のマントの裾からきらきらと光が放たれ大広間からテラスへと流星のような軌跡を描いてゆく デ丨もエレタナを星降るテラスへといざな二千年前の大会議でこの地を訪れた際ひと目で恋に落ちたときのように 夢のように美しいふた組の姿にまわりから無数の吐息がもれた それからみな次々と踊りだしというまに陽気な輪が広がる ユナはルドウンとともにテラスに近い席にいたがエレタナとデ丨の輝くような笑顔に幸せな気持ちでいぱいになきみを誘いたいけど残念だなルドウンがいうそうですねリ丨と並んで向かいの席にいたヨルセイスが神妙にうなずきユナの身体ではまだ少しあなたと踊るのは難しいでしふたりともてきてわたしリ丨とここにいるからルドウ明るい声が響いた ユリス王子が片手をあげて手招きしていレフンが戻てきたレフユナはルドウンに聞いユリスの腹心だよと行てくる ルドウンは立ち上がりそちらへ向かう彼を目で追おうとしてユナはふとうなじに誰かの視線を感じる小さく眉をよせて振り向いた 斜め後ろ円柱の陰から姿を現したのは先ほどまでテラスで踊ていたオ丨ベンレンガ丨王エヴイン王妃をともなこちらに歩いてくるユナ王妃がほほえみかけたヨルセイスがいうように踊るのはまだ少し難しいで

ただ|| 王妃の瑠璃色の瞳が王を見上げそのまなざしを受けて王はおもむろに言葉を継ぐ相手がフ丨ンならば夜明けまでも踊れよう 王はユナに手を差し伸べユナは手を差し出した王の手が彼女の手にふれるそのとたんユナの身体は羽のように軽くなり瞬のうちに流星のような光に包まれて王の腕の中で踊ていた いつのまにテラスに出たのか頭上は降るような星空楽師たちの演奏に合わせるよう吹きゆく風もやさしい旋律を奏でてい ユナの心はふるえた エルデラ丨ヌでこれほどあたたかく迎えられながら||あるいはだからこそい密かに抱いていたひとつの思いがその心に影を落とす 預言を成就うじする道はほかにもあたのではないか レクスト丨ルはいていた未来はつねに変わりいつも動いているのだと あの朝最後にグルバダと対峙したときの決断には一片の後悔もないあのとき光を解放しなければ大いなるダイヤモンドとともにそれにまつわる記憶も奪われていたただそこにいたるまでのどこかの時点で丨ンの至宝を守る道があたのではない ユナの脳裏に燦然さんぜんと輝くダイヤモンドが浮かびあがるいつか夢で見た切り出される前の原初の聖なる光を秘めた美しい姿が フ丨ンの輝ける生命の守り手であるゆいいつ無二むにの石そのダイヤモンドを奪われてからエルデラ丨ヌに新たな命が授かることはなくエレタナが最後のフ丨ンだ彼女とランドリアのあいだにルシタナが生まれたのはランドリアが人間だたからだ丨ンは人よりずと長く生きるが永遠に生きる存在ではない だからこそ大いなるダイヤモンドの奪還エルデラ丨ヌの悲願であり未来そのものだたのだしかしもはやその願いが叶うことはなく未来への希望は永遠に絶たれてしま||ユリデ ユナは顔を上げる確かに別の道もあたかもしれぬされあの石がこの世にある限り不死の騎士は地上をさまよいあの男はふたたびよみがてくるであろう ユナはまわりで踊るフ丨ンたちを見た彼らはあたかも星々の世界から舞い降りてきた精霊のようだその美しい存在がいつの日かこの地上から姿を消すのだと思うとナの胸はどうしようもなく痛んだ悲しむことはないわれわれの誰もが覚悟していたことだ王の声は静かだしてダイヤモンドが戻たあかつきにはわたし自身がその石を光の源へ還そうと思ていた

 ユナは王に目を戻した 王の瞳は宇宙の深淵しんえんのように深くここではないどこか遥かなる世界をさまようようされどふたたびあの石を手にしてその思いを貫くことができたかどうか 長い沈黙が落ちるユナはなんといいいかわからなか 不意に王の瞳がやわらかな水色に染まるレクスト丨ルはいていた望みは常にあると 王はほほえみユナを抱いたまま優雅にまわる漆黒のマントからきらきらと光がこぼれ落ちその流星のような軌跡を透かして丨とエレタナの姿が見えた永遠の祝福に包まれ互いを見つめて時を忘れたかのように踊ている戦争は終わりこれからあらたな時代が始まる人とフ丨ンのあらたな友情もは言葉を切りおもむろにいいそえるのふたりはその架け橋になるであろうそうですね陛下ユナはほほえんだ 王はユナを見つめ眉を上げるオ丨ベンレンガ丨と呼んではくれぬかわかりましたオ丨ベンレンガ丨ユナはうなずくではわたしのことはユナとそうしようユナ そして夜が深まり踊り手たちの熱気が増すなか王はユナをテラスの片隅へと導い少し休むとよい 王はユナを欄干らんかんにあずけ肩越しに振り返踊りの輪を抜けルドウンとエヴン王妃がこちらにくるのが見えた  王と王妃が踊りの輪に戻てゆくとユナはルドウンと並んで欄干にもたれきらめく流れと川向うの人の世界をながめた 対岸の森は静かでその彼方星あかりに浮かぶ白銀の峰は息を呑むほど美しいその右手はるか東の空の下にはなつかしい故郷の大地が広がているはずだ 深いあい色の空にロデス伯父とイルナ伯レアナの面影おもかげが浮かぶ胸がぎとしめつけられたレアナはルドウンとの誓いを守りユナが旅立たことを伯父夫婦にも打ち明けていないに違いないそれできみの心は晴れたルドウがいうなにか悩みを抱えていたんじないかな ユナは瞬きする気づいていたのそのことでいぱいでほかのことを考える余裕がないみたいだたからね テラスでは大勢が踊ていたが欄干の片隅にいるふたりに目を留める者はいないべてが終わりギルフスの宮殿で目覚めたあとルドウンが最初に部屋に入てきたときをのぞいてふたりきりになるのは初めてだそのことに気がついてユナはちとドキドキしてくる

悩みごとは解決したええよかルドウンはいい遠い空に目をやいまごろウルダナでも終戦と夏至の夜を祝ているなそうね平和会議が終わたらヨルセイスが送てくれるそうだ丨ンの帆船なら陸路よりずと早い来月のなかばにはぼくらもあの空の下にいるよほんとああルドウンは笑顔でうなずく 不意に切なさがこみあげた 待ち望んだ帰郷けれどそれは同時にルドウンとの旅が終わりに近づいていることを意味する自分でも驚くほど心が揺れユナは動揺を隠すためにさりげなく視線をそらすきみの家族には本当にすまないと思いるだがすべてが終わるまでどんな話も漏らしたくなかルドウンは言葉を切るルシタナの再来が現れて剣の魔力を解放したことは世界中に伝わている間に対する表向きの話はともらしく聞こえるよう真実と嘘を交えようどんなふうにそうだなたとえば実際グルバダはシタナの再来を探して世界中に追手を放いて各地で怪しい輩が出没しているといううわさが立ていたそこで再来の候補として年頃の娘が狙われていたとして水車小屋の襲撃は灰色の騎士によるものだたと公表する クレナのダンスパ丨テもそうで以来密かに警戒にあたていた王室の護衛がきみを救い安全な場所にかくまきみは重傷を負ていたが一命をとりとめ療養をしているあいだに本物の再来が現れて預言を成就したなんだかつまらない話ねほんとのことを公表するかなそれはだめユナはあわててかぶりを振る 大勢の者に支えられ助けられてなんとか使命を果たすことができたのだ自分ひとりではなにひとつできなかけれど世間はそんなふうには考えず彼女を英雄に祭り上げるだろうたらいまの話でいいね もちろんレアナには真実を伝えよう伯父さん夫婦にはどうするそうね||伯父たちに嘘はつきたくないよか賛成だクレナに送ていときぼくから話そうあなたからああレアナにはきみと帰ると約束したしきみが家族と故郷をどれほど大切にしているかはわかているつもりだきみが自由を愛する人間だということもだが|| そこで言葉を切るとルドウンは並んでもたれていた欄干から身体を離し彼女の方を向いた熱を帯びたとび色の瞳がぐに彼女を見つめる

ユナ彼はい世界中探してもみのようなひとはいない ユナは息をするのを忘れる結婚してくれないか 一瞬すべての音が消えユナの心臓の鼓動も止まそれから早鐘はやがねのように打ち始める抑えていたあらゆる感情が一気に押し寄せ頭も身体もくらくらしたルド|| 彼との未来を夢見なかたといえば嘘になけれども彼は世継ぎの王子ともに歩む道はユナには見えなかそれゆえと自分にいいきかせてきたのだ彼が生きていただけで充分ではないか ルドウンはユナが続けるのを待ユナはなんとか気持ちを落ち着かせようとしたが鼓動はいそう速くなる噂では||噂では||国王は退位をお考えとか声がふるえるのがわか未来の王妃になる女性は国王からも国民からも祝福されないときみがルシタナの再来だと明かせば国民は熱狂的にきみを迎えるんだがなルド||わかてる彼はやさしくさえぎるはどんな異議もとなえないよ都を発つ前父がきみのことをなんと呼んだか忘れたの ユナは目をふせた ウルダナの宝||どうして忘れられようかエレド峡谷うこくでルドウンを失たとたあとくずおれそうになりながらのその言葉を胸に辛い旅を乗り越えてきたというのに国王が祝福すればと国民も認めてくれる心の準備をする時間はいくらでもあるよ王妃になるのはと先の話だから父は当分王位をゆずる気はないよこの春から試しているウロ丨山麓さんろくの薬草が々に効果を現してきて十日ほど前からえがあれば歩けるようになたそうだから||本当にああルダナに派遣されていたユリスの腹心レフンがついさき戻てきて知らせてくれたたぶん新しい薬草との相乗効果もあるんじないかなきみを無事旅立たせたウルダナへの感謝を込めてエルラ丨ヌからも薬草が届けられていたというから父は明々後日丨ンの船でやてくる大切な会議を未熟な息子にまかせてはおけないとばかりにね 鳶色の瞳にいたずらぽい光がひらめくそれできみのこたえは まだ夢を見ているようだユナはただ茫然ぼうぜんと彼を見るルドウンは彼女を抱き寄耳もとでささやいた二千年待たんだもう充分だと思わない