短剣の切っ先が、すっと喉に向けられた。ユナは目を閉じる。殺されるんだ||。 ﹁そのつもりなら、とうにそうしている﹂呆れたような笑い声が聞こえた。﹁昨日運ばれてきたとき、そなたは赤子のように無防備であったからな﹂ ユナは目を開ける。グルバダは、彼女の右側にたたずんでいた。短剣はテ丨ブルの上、すぐ目の前に置かれている。 美しい短剣だった。ロ丨ブの上から見たときにはわからなかったけれど、銀の
﹁彼は愚かなんかじゃないわ﹂ユナは、さっと相手を
が、誘うようにうながした。 ユナは、遠くを見やる。オオユリの木の群生地の彼方に、一瞬、淡い紫色にきらめく世界が見えた。 よく見ようと目を凝らした瞬間、そよ風が耳をかすめた。風に乗って、かすかな歌声が聞こえてくる。やさしい聞き覚えのある声。レアナ||? その瞬間、
ユナはグルバダに視線を移した。 蝋燭の炎が消えたいま、彼の金髪は月の光を受けて白銀にきらめき、その青い瞳は光を
く響き合っている。失われることはなく、記憶を失うこともない。わたしはそなたの中に深く分け入り、そのすべてを洗い出す。魂に刻み込まれた、あらゆる記憶をひとつ残らず﹂ グルバダの言葉に、全身が冷たくなっていった。 今夜脱出するとはいえ、そんなことは想像するだけでぞっとする。それでも、なんとか心を強く持って、彼を見つめた。﹁いわなかった? あなたに忠誠を誓う気などないと﹂ グルバダは、やわらかな表情でユナのまなざしを受け止める。﹁せっかくの
真っ青な瞳に、氷のような笑みが浮かぶ。﹁それとも、この若者も、あの男と同じように見殺しにするつもりかな?﹂