12

 ユナは、フォゼとジョージョーと身を寄せあい、馬たちの陰で息をひそめていた。上からは、剣の交じわる音や、なにかがぶつかる音、雄叫びや怒鳴り声が聞こえてくる。
 端にいた馬が、ひと声いなないた。どきっとして振り向くと、ひとりの騎士が、あたりを見まわしながら窪地に降りてきた。
「ひえっ!」ジョージョーが声を漏らす。
 騎士は、さっとこちらを向いた。フードの奥で、二つの目がうす黄色に光る。
 ジョージョーとフォゼの歯がガチガチと音を立てた。ユナの心臓も、ものすごい勢いで打っている。なんとかしなきゃ。逃げるか叫ぶか、なんでもいいから。
 そのとき、少し離れたところに置かれた弓矢が目に入った。駆け寄ってつかむ。
「来ないで! 近寄るとつわよ!」ふるえる指で矢をつがえ、相手に向けた。
 騎士は動じなかった。フードの奥からユナを見据え、こもったような低い声でいう。
「弓をおろせ。どうせ射てまい」
 それを聞いたとたん、恐怖心は消え、ふるえがぴたりとおさまった。ユナは、弦をきりりと引き絞り、一歩一歩近づいてくる騎士の心臓に狙いをさだめる。そして、放った。
 騎士はがっくりとひざをつき、フードの奥からユナを見据えたまま、横ざまにどっと倒れる。背中からは、鋭いやじりが突きだしていた。
 騎士を見下ろし、ユナはいった。
「みくびらないで」 
 
 窪地の上では、壮絶な戦いが繰り広げられていた。槍を手にしたヤンは、次々と灰色を倒し、ヒューディは短剣を手に、すばしこく身をかわしては相手を翻弄ほんろうする。
 ルドウィンは、リーダーとおぼしきひときわ大きな相手と渡りあっていた。激しい応酬の末、ようやく相手の剣を払い飛ばし、身体ごとぶつかるようにその胸を貫く。そのとき、ヒューディが攻撃を避けて倒れるのが、目の端に入った。はっとして振り向く。
 仰向けに倒れたヒューディに、いままさに、刃が振り下ろされようとしていた。
 ルドウィンは身を投げだし、ヒューディにおおいかぶさる。右肩に激痛が走った。怒りの声が上がり、騎士がとどめを刺そうと、ふたたび剣を振り上げる気配がする。
 ビュッ! くうを引き裂き、なにかがうなった。どさっと大きな音がして、地面が揺れる。
「ルドウィンさま!」ヤンが駆け寄ってきて、彼を抱き起こした。
 その下からヒューディが起きあがる。近くには槍に串刺しにされた騎士が倒れていた。
「ルド||
「心配するな」ルドウィンは、焦点の合わない目でヒューディを見る。「俺は||タフにできているから」
 ヒューディがこたえるまもなく、敵の残党が向かってきた。
「この灰色野郎!」ヒューディは短剣を手に取り、ヤンも腰の剣を抜く。
「フォゼ! ジョージョー! 王子を頼む!」
 ルドウィンは必死に身を起こそうとした。傷は燃えるように熱いのに、身体の芯は凍えるようだ。ああ、くそ。奴らはどれだけ残っている? ユナは無事なのか||
 それが、最後の思いだった。彼は深い闇へと落ちていった。