第Ⅰ部 虹色の蝶

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 ローレアの花が、丘を一面に水色のじゅうたんにしていた。午後の太陽が丘の上の遺跡に降りそそぎ、それが落とした影のところだけ、深い紫に染まっている。
 ユナは、なかば崩れたその遺跡で、あおむけに寝て空を見上げていた。ローレアの咲き乱れる早春からいまごろにかけてが、ユナの一番好きな季節だ。
 緑豊かなこのウォルダナで、ユナは伯父夫婦に見守られ、従姉いとこのレアナと姉妹のように育った。両親を早くに亡くしてはいたけれど、クレナの丘を望む小さな村は、澄みきった川や白樺の森があり、夜には降るような星がきらめく。
 じきに十七歳になるというので、伯母は彼女の将来を案じているが、ユナにはなんのくったくなく、未来はいつも輝いて見えた。
 ただ、ほんの時おり、ふとなにかを忘れているような気がすることがあった。どこかで遠い声が自分を呼んでいるような、不思議な気持ちになることが。
 ずっと昔、誰かと大切な約束を交わさなかったろうか? 別の時代、別の世界で||
 いまもなぜかそんな気がして、ユナは眉をひそめる。それから、すぐに笑った。わたしったら、またばかなことを。
 それにしても、なんて青い空だろう。星が見えそうなほど澄んでいる。
 ユナは目を閉じた。草原を渡る風がほおをなでてゆく。
 ああ、わたし、世界とひとつになっている。身体がふるえるような幸福感が、ユナを包んだ。