あとがき
ここにようやく、エピローグまでお届けすることができて、ほっとしています。連載の再開を待っていてくだった皆様、そして、最後までお読みくださった皆様、本当にありがとうございました。
デビュー作『ユリディケ 時をこえた旅人たちの物語』から、伝説の時代にさかのぼった〈サラファーンの星〉四部作が生まれ、ふたたび『ユリディケ』の世界に戻ったいま、三十年以上前に書いた物語が、円環を描いて一巡し、戻ってきたような気がしています。
四部作は、戦争によって終末に向かう世界が舞台で、悲しい出来事も多かったので、今回『ユリディケ』を改稿するにあたっては、その悲しみが喜びに書き換えられるよう願いながら物語を紡ぎました。
(もちろん、その願いは、すでにオリジナル版で叶っているのですが、過去の物語を書いたことで、ひとりひとりの登場人物の思いがよく伝わってきて、あらためて、祈るような気持ちで。)
最初の「ごあいさつ」でお伝えしたように、改稿は、できる限り当初の息吹を残すべく、シンプルな作業にしようと思っていました。
ところが、先へと進むにつれて、伝説の時代に重要な役割を果たした人物が名前しか出てこないことや、ダイロスの描き方、終盤の展開などに違和感を覚え、その結果、大幅な加筆訂正をすることとなりました。
それでも、当初の息吹を残したいとの思いは強く、どうバランスをとるかが、とても難しかったです。
そんななか、助っ人となってくれたのは、登場人物たちでした。とりわけ、薬草使いの姉弟とヨルセイスは頼もしく、いつも迷うことなく導いてくれました。
そのあたりのエピソードは、四部作とのつながりも含めて、今後ブログでお話ししようと思っています。
『ユリディケ』は、かつて二十代のわたしが、戦争と環境破壊に脅かされている世界が、平和で美しい世界へと向かうよう、また、読む人たちに明るい気持ちになってもらえるよう願いながら書いた物語です。
未来は、きっと明るいと信じていました。
新型コロナのパンデミック、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻、吹き荒れる分断の嵐、激化する気候変動……。
改稿を終えたいま、世界はいっそう逆の方向へと突き進んでいます。そのことが、切なくてなりません。
それでも、わたしは希望を持っています。
あきらめたら、希望はそこでついえてしまいます。
どんなに世の中が理不尽でも、どんなに闇が深くても、どんなに胸が痛んでも、希望の光はきっとあると信じたい。見知らぬ人のやさしさや、子どもたちの無垢な笑顔、家族や友だちのエール、誰かの幸せを願う人々の祈りの中に。
どうか、このささやかな物語が、そのひとつとなりますように。
二〇二二年 八月