ごあいさつ 改稿版の連載に寄せて
緑に囲まれた最果ての国で自由気ままな毎日を送っていたユナは、ある夜、伝説の娘の生まれかわりだと告げられる||。
『ユリディケ 時をこえた旅人たちの物語』は、そんなユナの苦難と冒険の物語。〈サラファーンの星〉四部作(東京創元社)の二千年後を描いたファンタジーです。
一九八九年に理論社より刊行され、長らく絶版でしたが、ここに改稿版をお届けすることになりました。初版から三十年ぶりの復刊です。
一作で完結する物語ですので、この『ユリディケ』だけ読んでいただいても、また、こちらから読んでいただいてもかまいません。
二千年前の出来事が伝説として出てきますが、伝説ではすべては伝えられておらず、『ユリディケ』から〈サラファーンの星〉へと時代をさかのぼると、なぜ伝えられなかったのかも含め、秘められた過去が明かされていくようになっています。
物語のインスピレーションが降ってきたのは、世界が軍拡で揺れた時代。地球温暖化が叫ばれ始めた時代でもありました。
戦争と環境破壊の脅威。世界はどこへ行くのか? どうすればこの流れを止められるのか? わたし自身の人生も崩壊寸前で、人とはあまりに小さく無力な存在に思えました。
そんなとき、突然さした一条の光。
わたしは、熱に浮かされたように若者たちの冒険の旅路を綴りました。不確かな未来のなか、人生の暗闇のなかで、ひとつの希望の物語として。
やがて幸運な出会いに恵まれて『ユリディケ』が世に出た当初、わたしは前日譚を書き始めていました。どちらからでも読める双子の作品として、すぐに発表するつもりだったのです。
けれども、諸々の事情で長い中断が入り、物語に戻ったときには、〈サラファーンの星〉は、初めに思っていた以上の広がりを見せ始めていました。わたしの文体も、情景や心情描写を含め、ずいぶん変わっていました。
改稿にあたっては、すべてを書き直すのもひとつの方法だったでしょう。
ただ、そうすると、若き日に情熱がほとばしるまま書き綴った物語とは、まったく別の作品になってしまう。つたないけれど、最初に執筆したときの息吹を残したい。それが素直な思いでした。その上で、矛盾やギャップが出てきたところは改め、〈サラファーンの星〉とのよすがが感じられるエッセンスも、随所にちりばめられたらと思っています。
二〇一九年 新春
追記
前日譚の四部作を踏まえて直すうちに、大幅に加筆訂正することとなりました。
できる限り当初の息吹を残しつつ、最善の形となるよう紡いでいこうと思っています。
どうか楽しんでいただけますように。
二〇二〇年 初秋